Global Classroomについて
世界をひとつの教室にする、教師たちの小さな挑戦
Global Classroomは、世界中の学校、大学、語学学校、教育機関で働くボランティアの教師たちによって運営されている国際的なオンライン・コミュニティです。参加するために特別な資格は必要ありません。必要なのは、インターネット環境と、世界の誰かと出会ってみたいという小さな好奇心だけです。
私たちが掲げている最大の目的は、“Building New Friendship for making it a better world” です。これは単なるスローガンではありません。国籍、母語、文化、宗教、学校制度、生活環境が異なる生徒たちが、オンライン上で出会い、話し、笑い、考え、時には戸惑いながらも互いを知っていく。その積み重ねが、よりよい世界を作るための最初の一歩になると私たちは信じています。
英語教育の現場では、「英語を学ぶこと」がしばしばテストの点数や入試対策と結び付けられます。もちろん、文法や語彙、読解力、資格試験の力を育てることは大切です。しかし、言語の本質はそこだけにあるわけではありません。言語とは、人と人が出会い、相手の考えを知り、自分の気持ちを伝え、互いの存在を認め合うための道具です。Global Classroomは、その本来の言語の意味を、生徒たちが実際の体験を通して学ぶための場です。
OECDのPISA 2018では、これからの時代に必要な力として「グローバル・コンピテンス」が示されました。そこでは、ローカル・グローバル・異文化的な課題を理解し、他者の視点や世界観を尊重し、異なる文化背景を持つ人々と適切かつ効果的に関わり、持続可能な社会のために行動する力が重視されています。Global Classroomが目指しているものは、まさにこのグローバル・コンピテンスの実践的な育成です。
Mystery Skypeから始まった、世界とつながる授業
Global Classroomの原点には、私自身が英語の授業内で取り組んできたMystery Skypeがあります。Mystery Skypeとは、もともとMicrosoftの教育コミュニティ “Skype in the Classroom” の中で広がった国際交流型の学習活動で、Skypeというインターネット通話・ビデオ通話サービスを使い、世界のどこかにいる相手校とつながる活動です。生徒たちは相手の国や地域を直接聞くのではなく、英語で質問をしながら、少しずつ相手の場所を推測していきます。
この活動の魅力は、英語が突然「教科」ではなく「必要な道具」に変わる瞬間にあります。普段は教室の中で練習している英語表現が、画面の向こうにいる本物の相手とつながった瞬間、生徒たちにとって意味を持ち始めます。質問を考えること、相手の答えを聞き取ること、地図を見ながら推測すること、チームで相談すること。そのすべてが、英語を使う明確な目的になります。
私は、この活動を通して、生徒たちが世界とつながる素晴らしさを体験し、世界に、言語に、そして何より自分自身の変化に興味を持ち始める姿に何度も出会いました。英語が得意な生徒だけが輝くわけではありません。地図が好きな生徒、質問を考えるのが得意な生徒、相手の表情をよく見る生徒、仲間を励ます生徒。それぞれが役割を持ち、世界との対話の中で自分の居場所を見つけていくのです。
なお、Skypeは2025年5月にサービスが終了し、現在はMicrosoft Teams Freeへの移行が案内されています。しかし、Mystery Skypeが教育現場にもたらした価値は、特定のアプリに限定されるものではありません。重要なのは、ツールそのものではなく、ICTを使って教室の壁を越え、生徒が世界と出会う設計にあります。
パンデミックが奪ったもの、そして生まれたもの
2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の学校が突然閉鎖されました。留学、海外研修、姉妹校交流、修学旅行、国際イベント。これまで生徒たちにとって貴重だった国際交流の機会は、次々と失われていきました。英語教師として、私は強い危機感を抱きました。
「世界とつながる経験を、生徒たちから奪ったままでよいのだろうか。」
そう考えた私は、Facebook上の教育者コミュニティで声を上げました。国境を越えて、生徒たちが安全に、継続的に、そして気軽に出会えるオンラインの場を作れないだろうか。同じ思いを持った教師たちが少しずつ集まり、その小さな呼びかけが、現在のGlobal Classroomへとつながっていきました。
私がこのコミュニティをGlobal Classroomと名付けたのは、単に「世界中の生徒が集まる教室」という意味だけではありません。私が思い描いていたのは、国境、学校名、偏差値、英語力、家庭環境といった目に見えない壁を少しだけ低くし、世界中の生徒が同じ一つのVirtual Roomに入れるような場所でした。そこでは、日本の高校生も、台湾の生徒も、インドネシアの大学生も、エジプトの語学学校の学習者も、同じ一人の学習者として参加します。誰かが先生で、誰かが評価される側という関係ではなく、互いに学び合い、問い合い、つながり合う一つの教室。それがGlobal Classroomという名前に込めた思いです。
パンデミックは多くの教育機会を奪いました。しかし同時に、オンラインだからこそ可能になる新しい教育の形も生み出しました。Global Classroomは、その時代の制約の中から生まれた、教師たちの希望の実践だったと言えます。
小さな交流から、5000人を超える国際コミュニティへ
最初のGlobal Classroomは、とても小さな活動でした。授業内で数名のゲスト教師に参加してもらい、Mystery Skypeに近い形で、生徒たちが英語を使って交流するところから始まりました。参加者が少ないうちは、全員が一つの画面上で話し、全体で質問し合う形式でも十分に機能していました。
しかし、活動が広がるにつれて、参加者の数は30名を超えるようになりました。そこで、Global ClassroomのCo-founderのメンバーたちと話し合い、ZoomのBreakout Room機能を活用して、小さなディスカッショングループに分ける形式に変更しました。さらに、それぞれのBreakout Roomには各国の教師がFacilitatorとして入り、生徒たちの会話を支援する役割を担うことにしました。
この仕組みは、Global Classroomの成功にとって非常に重要でした。大人数の前で英語を話すことは、多くの生徒にとって大きな心理的負担になります。特に日本の生徒は、間違えることへの不安、沈黙への恐れ、発音への自信のなさを抱えやすい傾向があります。しかし、少人数のBreakout Roomに分かれ、そこに安心できる大人のFacilitatorがいることで、会話へのハードルは大きく下がります。
この設計は、教育学的にも意味があります。オンライン学習においては、単に接続環境を用意するだけでは十分ではありません。参加者が「ここでは話してもよい」「間違えても受け止めてもらえる」と感じられる心理的安全性が必要です。また、Vygotskyの社会文化理論が示すように、学習は他者との相互作用の中で発達します。Facilitatorは答えを教える存在ではなく、生徒たちが自分たちの力でやり取りできるように支える足場かけの役割を果たしています。
現在もこの形式は続いています。2026年現在、Global Classroomには毎回100名を超える参加者が集まります。Facebookの先生たちのコミュニティ参加数は5300人を超えています。生徒たちは、新しい国の友達、新しい話題、新しい価値観との出会いを求めて参加してくれます。これは、単なる一回限りのイベントではなく、継続的な学習コミュニティとしてGlobal Classroomが機能していることを示しています。
活動の流れと設計
Global Classroomでは、毎回ディスカッションのトピックを事前に決めています。トピックは、Facebookのグループコミュニティや公式Instagramを通じて、およそ1週間半前に告知します。その後、参加を希望する生徒を担当している先生にRegistration FormとしてGoogle Spreadsheetを送り、参加者情報を集約します。
先生方は、決められたBreakout Roomに生徒の名前を入力します。もちろん、実際にセッションが始まると、Zoomの操作に慣れていない生徒が違う部屋に入ってしまうこともあります。予定していた部屋と違う場所に行ってしまったり、名前の表示が違っていたり、マイクが入らなかったりすることもあります。しかし、こうした小さな混乱もまた、国際的なオンライン活動のリアルな一部です。完璧に整った環境ではなく、少し不完全で、だからこそ人と人が助け合う余地がある。その柔らかさもGlobal Classroomらしさの一つだと思っています。
セッションは、毎週土曜日の日本時間21時から22時まで行っています。前半の30分は、事前に決められたテーマについてのディスカッションです。例えば、学校生活、将来の夢、環境問題、文化、食べ物、教育、平和、テクノロジーなど、生徒たちが自分の経験や考えを語りやすく、同時に相手の国や文化を知るきっかけになるテーマを選びます。
後半の30分は、OnlineMateという活動です。OnlineMateでは、生徒たちがBreakout Roomに割り振られた日常的なテーマの部屋に自由に入ることができます。趣味、音楽、ゲーム、アニメ、スポーツ、夢、学校生活、恋愛など、よりカジュアルで個人的な話題を扱います。この時間は、英語を「正しく話す」ことよりも、「相手とつながる」ことを重視しています。
このOnlineMateは、Global Classroomの中でも特に大切な活動です。なぜなら、生徒たちが最も自然に会話を始めるのは、社会的に大きなテーマだけではなく、自分の好きなことや日常の小さな話題だからです。共通のゲームが好きだった、同じ音楽を聴いていた、将来の夢が似ていた。そのような小さな共通点が、国境を越えた友情の入り口になります。
なぜこの活動はうまくいっているのか
Global Classroomがうまく機能している理由は、偶然ではありません。活動の背景には、言語教育、異文化理解教育、オンライン学習、社会心理学の観点から見ても説明できる要素があります。
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第一に、「本物の相手」と「本物の目的」を持つ言語活動です。相手が実在し、返答が予測できず、自分の言葉が相手に届く状況は、学習への動機づけを大きく高めます。
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第二に、異文化間コミュニケーション能力を育てる構造です。「日本では普通だと思っていたことが世界では違う」と気づくことこそが異文化理解の出発点です。
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第三に、「接触仮説」に基づく設計です。対等な関係、共通の目的、支援する大人の存在が、異文化接触を肯定的な経験へ変えます。
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第四に、心理的安全性の重視です。少人数のBreakout RoomとFacilitatorの存在が、不安を取り除き、話すことへの挑戦を促します。
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第五に、継続性です。一回限りではなく「また会える」という環境が、生徒に継続的な英語使用の理由を与えます。
友情が生まれる瞬間
Global Classroomの成果は、テストの点数だけでは測れません。もちろん、英語で質問する力、聞き取る力、自分の考えを伝える力は育っていきます。しかし、私にとって最も大きな成果は、生徒たちの中に「世界に友達がいる」という感覚が生まれることです。
2025年、私にとって忘れられない連絡が届きました。2021年にGlobal Classroomへ参加し始めた台湾と日本の生徒が、実際に台湾でリアルに会ったという知らせでした。オンライン上で出会った二人が、数年後に実際の世界で再会する。これは、創設者として言葉にならないほど嬉しい瞬間でした。
その時、私は強く思いました。彼らの未来の一部を作ったのは、間違いなくGlobal Classroomだったのだと。そして、英語教師として自分がやってきたことは間違っていなかったのだと。
英語教師の仕事は、受験指導だけではありません。もちろん、大学入試に向けて文法を教え、長文読解を鍛え、英作文を添削することは大切です。それによって生徒の進路が開かれることもあります。しかし、言語を教える教師が本当に伝えるべきことは、英語の先に人がいるということです。
英語は、点数を取るためだけのものではありません。英語は、誰かの人生に触れるためのものです。英語は、自分の世界を少し広げるためのものです。英語は、会ったことのない誰かと笑い合い、考え合い、いつか実際に会う約束をするためのものです。この感覚を生徒に届けられるかどうか。私はそこに、英語教師としての大きな境界線があると思っています。
国際交流の真髄
私がGlobal Classroomを続ける理由は、英語教育へのこだわりだけではありません。私にとって国際交流の真髄とは、「よりよい世界を作るための足がかり」です。
世界を知ること。相手を知ること。相手の文化を知ること。相手の言葉を知ること。そして、相手の存在を認め、互いに敬うこと。その小さな連鎖が広がっていく時、世界をよりよくしようという思いや行動が、無数に生まれていくのだと思います。
SDGsの目標4.7では、持続可能な開発、平和と非暴力の文化、グローバル・シチズンシップ、文化的多様性の尊重に関する教育の重要性が示されています。Global Classroomは、大きな政策文書の言葉を、教室の中の具体的な体験へと変える実践です。生徒たちは、難しい理論を先に学ぶのではありません。まず、画面の向こうにいる一人の友達と出会います。その友達の話を聞き、自分の話をします。その後で、世界は一つではないこと、文化は多様であること、そして違いは恐れるものではなく学び合うものだと理解していきます。
国際交流は、特別な学校や、一部の英語が得意な生徒だけのものではありません。インターネット環境があれば、地方の学校からでも、普通の教室からでも、世界とつながることができます。だからこそ、Global Classroomには意味があります。お金をかけた海外研修だけが国際交流ではありません。教師たちが協力し、オンライン上に安全で温かい場を作れば、生徒たちはそこから世界へ歩き出すことができます。
これからのGlobal Classroom
Global Classroomは、完璧なコミュニティではありません。時差の問題、通信環境の問題、実施時期(各国の学校スケジュール)、参加者数の調整、トピック設定、Facilitatorの確保など、毎回さまざまな課題があります。時には、思ったように会話が盛り上がらないこともあります。生徒が緊張して沈黙してしまうこともあります。国や学校によって、英語力にも大きな差があります。
しかし、それでもこの活動を続ける価値があります。なぜなら、Global Classroomは完成されたシステムではなく、世界中の教師と生徒が一緒に作り続ける生きたコミュニティだからです。毎回の小さな失敗や改善が、次のセッションをよりよくしていきます。教師たちがボランティアで関わり、生徒たちが自分の意思で参加し、そこに新しい出会いが生まれる。そのプロセスそのものが、教育なのだと思います。
私は、教師として、教育者として、そしてGlobal Educatorとして、明日の小さなオンラインセッションが、生徒たちにとって新しいつながりの始まりになることを願っています。画面の向こうにいる誰かとの出会いが、将来の留学につながるかもしれない。将来の仕事につながるかもしれない。あるいは、人生のどこかで再会する大切な友人になるかもしれない。
その可能性を信じて、私はGlobal Classroomを続けていきます。支えてくれるCo-founderのメンバー、世界中のFacilitatorの先生方、参加してくれる生徒たち、そしてこの活動を信じて送り出してくれる先生方と共に、できる限りこの場を守り、育てていきたいと思います。
いつか、このGlobal Classroomで出会ったメンバーたちと、同じテーブルを囲んで食事をしたい。オンライン上で何度も笑い合った仲間たちと、実際に同じ空間で語り合いたい。その日を想像するだけで、この活動を続ける力が湧いてきます。
Global Classroomは、単なるオンライン英会話イベントではありません。
世界中の教師と生徒が、友情を通してよりよい世界を作ろうとする、
小さくて大きな教育運動です。
そして今日も、どこかの国の生徒が、
画面の向こうにいるまだ見ぬ友達に向かって、少し緊張しながらこう言います。
“Hi, nice to meet you.”
その一言から、世界は少しだけ近くなります。
Academic References
- Allport, G. W. (1954). The Nature of Prejudice. (接触仮説の基礎)
- Byram, M. (1997). Teaching and Assessing Intercultural Communicative Competence.
- Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2006). A meta-analytic test of intergroup contact theory.
- Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society. (社会文化的学習理論・足場かけ)
- Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. (情意フィルター仮説・心理的安全性)
- OECD (2018). The OECD PISA Global Competence Framework.
- UNESCO (2016). Target 4.7: Sustainable Development and Global Citizenship.