私は今、英語に加えてインドネシア語を学んでいます。 Global Classroomを通してインドネシアの人たちと交流する中で、 英語だけでも十分に会話はできます。それでも、その国の言葉で話してみたいと思うようになりました。

理由の一つは、インドネシアの教育を調べるほど、 日本とは異なる制度や改革の考え方に出会うからです。 ただし、この記事ではインドネシアを「日本より進んだ教育大国」と単純に持ち上げるのではなく、 実際に行われた改革と、そこから日本の教室で考えられることを整理したいと思います。

2026年9月追記:
本記事公開後、時制と制度の説明を更新しました。 Nadiem Makarim氏は2019〜2024年に教育行政を担った人物で、 2026年現在の初等中等教育大臣はAbdul Mu'ti氏です。 そのため、以下ではMerdeka Belajarを「現在の大臣の政策」ではなく、 2019〜2024年に進められた改革として扱います。

1. IT起業家が教育行政へ:Nadiem MakarimとMerdeka Belajar

2019年、Gojekの共同創業者として知られるNadiem Anwar Makarim氏が教育文化大臣に就任しました。 2021年の省庁再編後は、教育・文化・研究・技術大臣を務め、2024年10月まで在任しました。 企業経営の経験を持つ人物が教育行政のトップに就いたことは、私にとって非常に興味深い出来事でした。

この時期に進められた代表的な政策がMerdeka Belajar(自由な学び)です。 学校や教員により大きな裁量を持たせること、学習を単なる試験対策にしないこと、 評価やカリキュラムを見直すことなど、複数の施策が段階的に進められました。

重要なのは、「一人の起業家が一気に学校を変えた」と単純化しないことです。 インドネシアの教育制度は非常に大きく、地域差も大きいため、 政策の理念と各学校での実施状況は分けて見る必要があります。

2. 「全国試験をなくした」だけではない:Asesmen Nasionalへの転換

元の記事では「全国統一国家試験(UN)を全廃した」と書いていましたが、 より正確には、2019年末から従来の全国試験制度の見直しが進み、 2020年のUNは新型コロナウイルスの影響で中止されました。 その後、2021年からAsesmen Nasional(全国アセスメント)が導入されています。

Asesmen Nasionalは、従来のUNのように生徒一人ひとりの卒業判定を行う試験ではありません。 公式説明では、主に次の3つを用いて学校・教育システムの状態を把握します。

  • AKM:読解リテラシーと数的リテラシー(numeracy)
  • Survei Karakter:態度・価値観・習慣などの側面
  • Survei Lingkungan Belajar:学校や授業の学習環境

私がここに興味を持つのは、「テストをなくしたから先進的」という理由ではありません。 個人を順位づける試験から、学校の学習環境や基礎的能力を把握して改善につなげる評価へ視点を移そうとしたことです。 これは、私自身が授業でルーブリックや形成的評価を考えるときにも参考になります。

3. 2026年のインドネシア教育は、Nadiem時代のままではない

2024年10月の政権交代後、旧教育・文化・研究・技術省は再編されました。 2026年現在、初等中等教育を担当するのはKementerian Pendidikan Dasar dan Menengahで、 大臣はAbdul Mu'ti氏です。

2026年の同省は、AI・STEM、人材育成、教育アクセス、学習成果の改善などを政策課題として扱っています。 つまり、インドネシア教育を理解するには、 Nadiem氏の改革を重要な転換点として見る一方で、その後の政策がどう継承・修正されているかも追う必要があります。

4. 「多様性の中の統一」を学校教育でどう扱うか

インドネシアの国家理念を表す言葉としてよく知られているのが Bhinneka Tunggal Ika(多様性の中の統一)です。 現在のPendidikan Pancasila(パンチャシラ教育)の学習目標にも、 民族、宗教、人種、集団の多様性を理解し、受け入れることが含まれています。

また、宗教・人格教育(Pendidikan Agama dan Budi Pekerti)は現在も正式な学習領域として存在し、 2026年にもその学習成果が改訂されています。 ただし、宗教教育の具体的な実施方法は学校や地域によって異なるため、 「すべての学校で宗教ごとに別室に分かれる」といった一律の説明は避けるべきだと考えます。

私が教育者として関心を持つのは、 多様性を単に「違いを尊重しましょう」という標語で終わらせず、 異なる宗教・文化・言語を持つ人が同じ社会でどう学ぶかを教育内容として扱っていることです。 多文化化が進む日本の学校にとっても考える価値のあるテーマだと思います。

5. だから私はインドネシア語を学ぶ

教育制度について調べるだけなら、英語や翻訳でも多くの情報を得ることができます。 それでも私がインドネシア語を学びたいと思うのは、 制度の説明だけでなく、そこで暮らし、学び、教えている人が何を感じているのかを知りたいからです。

「Merdeka」という言葉も、日本語で「自由」と訳しただけでは分からないニュアンスがあるはずです。 現地の人の言葉を少しでも理解できれば、英語だけで交流するときとは違う距離で話を聞けるかもしれません。 言語を学ぶことは、単に語彙を増やすことではなく、 相手の世界を相手の言葉から見ようとすることだと私は考えています。

日本の教室に持ち帰りたい3つの問い

  • 評価:テストは生徒を順位づけるためだけでなく、授業改善のための情報になっているか。
  • 裁量:教員や生徒が、自分たちの状況に合わせて学び方を選べる余地があるか。
  • 多様性:違いを「配慮すべき問題」としてだけでなく、学びの資源として扱えているか。

インドネシアの制度をそのまま日本に持ち込む必要はありません。 他国の教育を見る価値は、「どちらが優れているか」を決めることではなく、 自分たちの学校を別の角度から見直す問いを得ることにあると思います。

参考資料

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