「なぜ、外国語を学ぶ必要があるのですか?」 英語教員として、生徒から何度も聞かれてきた問いです。 入試、資格、将来の仕事。どれも理由にはなります。 ただ、それだけでは「今日、この教室で英語を使ってみよう」と思える理由にはなりにくいことがあります。

文部科学省の高等学校学習指導要領でも、 外国語は知識として覚えるだけでなく、目的・場面・状況に応じて 情報や考えを理解し、表現し、伝え合うことが重視されています。 私自身も、授業を続ける中で、 生徒に英語を使う必要が生まれる場をどう作るかを考えるようになりました。

私がアプリを作る理由は、「アプリで英語力を劇的に伸ばしたい」からではありません。
教室の中に、短くても自分の言葉で話す時間を増やし、 その先に実際の人とのコミュニケーションをつなげたいからです。

1. 大学院で「通じる英語」を考え直した

University of the PeopleのM.Ed.課程では、 他国の教育者と協働して課題に取り組む機会がありました。 メンバーの国籍も母語も異なり、 私を含め、全員が同じ種類の英語を話していたわけではありません。

発音や語彙の選び方には違いがあり、 一度で意味が伝わらないこともありました。 そのとき私たちは、聞き返したり、チャットに書いたり、 別の表現に言い換えたりしながら作業を進めました。

そこで私が実感したのは、 英語でのコミュニケーションは「誰か一人の正しい英語をまねること」だけではないということです。 共通の目的のために、互いに理解できる方法を探し続けることも重要でした。

Council of EuropeのCEFRでも、学習者は単なる知識の受け手ではなく、 実社会で意味を作り、他者と協働するsocial agentとして捉えられています。 また、mediationでは、言語的・文化的な壁を越えて意味づくりを支えることも重視されています。

2. 「英語を使う場」があると、授業の意味が変わる

教科書の英文を読み、文法を理解することには大切な役割があります。 私自身も、説明や読解をなくすべきだとは考えていません。

ただ、生徒が英語を「使うもの」として感じるためには、 誰かに伝える目的がある活動も必要です。 たとえば写真を説明する、クラスメートに質問する、 海外の同世代に自分の学校生活を紹介する。 相手がいることで、言葉の選び方や伝え方を考える理由が生まれます。

このとき大切なのは、必ずしも大規模な国際交流を行うことではありません。 30秒のペアトークでも、写真描写でも、 「何を言うかを自分で選ぶ」活動であれば、 知識を使う練習になります。

3. Global Classroomで見てきた「言い直す力」

Global Classroomを始めたのは、 日本の生徒に、教室の外にいる同世代と話す経験を持ってほしかったからです。 私がそこで価値を感じているのは、 生徒が流暢に英語を話した瞬間だけではありません。

むしろ、相手に伝わらなかったときに、 もう一度言う、簡単な単語に変える、ジェスチャーを使う、 相手に聞き返す、といった行動が生まれることです。

CEFRが扱うmediationやonline interactionの考え方にも、 コミュニケーションを単なる「正しい英文の生成」としてではなく、 協働しながら意味を作る過程として見る視点があります。

もちろん、オンライン国際交流を行えば自動的に英語力や国際理解が高まるわけではありません。 事前準備、交流相手との調整、振り返り、プライバシーへの配慮など、 教師側の設計が必要です。 私はGlobal Classroomを「万能な方法」ではなく、 英語を実際に使う一つの学習環境として位置づけています。

4. PicSpeakは「本番のための最強ツール」ではない

元の記事では、PicSpeakを「最強のトレーニングツール」と表現していました。 今は、そこまで強く言う必要はないと考えています。

PicSpeakは、写真やイラストを見ながら、 知っている語彙や文法を短時間で取り出して声にする練習のために作りました。 写真があることで「何を話せばよいか」が見えやすく、 同じ課題を繰り返すこともできます。

一方で、PicSpeakのスコアや音声認識は、 英語力全体を測定する標準化テストではありません。 また、PicSpeakを使えば必ず実際の会話が上手になると保証するものでもありません。 実際のコミュニケーションの前に、声を出す回数を増やすための一つの練習手段です。

5. 私が考えている「練習 → 対話 → 振り返り」の循環

私が授業で作りたいのは、 アプリだけで完結する学習ではありません。 個人練習と人との対話を行き来する流れです。

  • 練習:写真描写や音読で、知っている表現を声に出す。
  • 対話:ペア、クラス、オンライン交流などで、実際の相手に使ってみる。
  • 気づき:言えなかったこと、伝わらなかったこと、相手から学んだ表現を確認する。
  • 再練習:必要な語彙や表現を加えて、もう一度使ってみる。

この循環の中で、PicSpeakは「練習」の一部を支え、 Global Classroomは「実際の相手と話す場」の一つになります。 どちらか一方が教育の答えなのではなく、 目的に応じて複数の活動をつなぐことに意味があると考えています。

6. アプリを作る出発点は、いつも教室にある

私が教育ICTを作り続けているのは、 新しいテクノロジーそのものに興味があるからだけではありません。 出発点はいつも、 「40人の生徒にどうやって発話時間を作るか」 「失敗してももう一度試せるようにするにはどうするか」 「授業で海外の生徒とつながる前に、何を練習させるか」 といった現場の小さな課題です。

だから、機能を増やせば良いとも考えていません。 先生が授業中にすぐ使えるか。 生徒が操作に迷わないか。 結果の数字を過大評価しないか。 実際の対話につながるか。 そうした問いを繰り返しながら改善しています。

「なぜ外国語を学ぶのか」という問いに、 私は一つの正解を与えることはできません。 ただ、自分とは違う人に何かを伝えようとした経験は、 言葉を学ぶ理由を生徒自身が考えるきっかけになります。

私が作りたいのは「世界への扉を必ず開くアプリ」ではありません。 生徒が一度でも多く、自分の言葉を使って誰かに近づける教室です。 PicSpeakもGlobal Classroomも、そのための異なる方法として育てていきたいと思っています。

参考資料

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