公立高校で15年間教壇に立つ中で、私は何度も「静かな教室」を見てきました。 生徒が前を向き、私語をせず、教師の話を聞いている。 教師側から見ると、とても整った授業に見えます。

しかし、静かにしていることと、学習に参加していることは同じなのでしょうか。 私自身の授業を振り返っても、生徒が静かだったからといって、 必ずしも内容を深く考えていたとは限りません。 逆に、ペアで話したり、質問したり、失敗しながら試したりしている教室の方が、 一見すると落ち着きがなくても、学習に入り込んでいることがあります。

この記事で考えたいのは、「講義型授業は悪い」ということではありません。
教師が説明する時間も必要です。 問題は、聞く時間だけが長く続き、生徒が「考える・話す・試す・振り返る」機会をほとんど持てないときです。

1. 「静か=参加している」とは限らない

学習研究では、student engagement(学習参加・学校への関与)は一つの行動だけでは捉えられないとされています。 Fredricks, Blumenfeld & Paris(2004)は、engagementを behavioral(行動的)、emotional(感情的)、cognitive(認知的)という複数の側面から捉えています。

つまり、席に座って教師を見ているという行動だけでは、 「おもしろいと感じているか」「頭の中で問いを持っているか」 「自分なりに考え直しているか」までは分かりません。 反対に、発言が少ない生徒でも、深く考えていることがあります。

そのため私は、授業を見るときに「静かだったか」だけではなく、 生徒が何を考え、何を選び、何を言葉にしたかを見る必要があると考えています。

2. 私自身も「説明しすぎる授業」をしてきた

学校の受け身な構造を批判するだけでは不十分です。 私自身も、若い頃は「分かりやすく説明すること」が良い授業だと考え、 教師がほとんどの時間を話す授業を何度もしてきました。

教師にとって説明はコントロールしやすい方法です。 予定した内容を時間内に扱いやすく、全員に同じ情報を届けることもできます。 テスト前や新しい文法事項の導入など、教師が直接教えた方が効率的な場面もあります。

ただ、英語コミュニケーションの授業で、 50分の大半を教師が英語について説明し、生徒が英語を使う時間が数分しかなければ、 「話せるようになるための授業」としては練習量が足りません。 これは、生徒の意欲だけの問題ではなく、授業の時間配分という設計の問題でもあります。

3. 文科省も「教師が教えない授業」を求めているわけではない

現行の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を進めることが示されています。 しかし文部科学省は、授業をすべてグループ活動にしたり、 教師の説明をなくしたりすることを求めているわけではありません。

高等学校学習指導要領解説では、 「生徒が考える場面」と「教師が教える場面」をどのように組み立てるかを考えることが重要だとされています。 私にとってこの考え方はとても現実的です。

重要なのは「教師が話すか、生徒が話すか」の二者択一ではなく、 何を教師が明確に教え、どこで生徒に考えさせ、 どこで使わせ、どこで振り返らせるかを設計することです。

4. 英語授業で変えたのは「説明」より先に「発話量」だった

私がPicSpeakのようなツールを作るようになった背景にも、 「教師が一人ずつ当てていたら、全員が話す時間を確保できない」という現場の問題があります。

40人のクラスで一人ずつ30秒話せば、それだけで20分かかります。 一方、端末やペア活動を使えば、複数の生徒が同時に話すことができます。 そこで私は、教師がすべてを評価する仕組みよりも、 まず全員が短くても声を出せる仕組みを作ることを優先するようになりました。

  • 教師の説明を短くして、すぐに1回目の発話をさせる
  • 写真など「何を話すか」が見える素材を使う
  • 最初から完璧な英文を要求しない
  • 一度で終わらず、同じ課題に再挑戦する
  • 教師の前だけでなく、ペア・端末・オンライン交流など複数の発話場面を作る

PicSpeakはそのための一つの道具です。 アプリを使えば主体性が自動的に生まれるわけではありません。 生徒によっては紙とペアワークの方が話しやすいこともあります。 大切なのは、ツールそのものではなく、生徒が実際に行動できる時間を増やすことです。

5. 「発言が多い生徒=主体的」とも限らない

ここにも注意が必要です。 参加型授業を意識しすぎると、「たくさん発言する生徒が良い生徒」という別の圧力を生むことがあります。 人前で発言することが得意な生徒もいれば、 一度書いてから話したい生徒、ペアなら話せる生徒、じっくり考える生徒もいます。

だから私は、参加の入口を一つにしないようにしたいと考えています。 全体発表だけでなく、個人で考える、書く、ペアで話す、端末に録音する、 オンラインで海外の生徒と話すなど、複数の参加方法を用意する。 それによって、同じ「授業参加」でも生徒が自分に合った入り口を見つけやすくなります。

6. 私が授業を見るときの5つの問い

  • 今日、生徒が自分で考える時間はどれくらいあったか。
  • 教師ではなく、生徒が英語を使った時間はどれくらいあったか。
  • 間違えた後にやり直す機会があったか。
  • 発言が得意な一部の生徒だけでなく、全員に参加の入口があったか。
  • 授業の最後に「自分は何が変わったか」を振り返る時間があったか。

15年間教壇に立ってきて、私自身の授業観も変わりました。 昔は「静かに聞かせること」「分かりやすく教えること」に強く意識が向いていました。 今は、それに加えて、生徒が自分で動いた時間がどれだけあったかを考えるようになっています。

教師の説明をなくす必要はありません。 静かな時間も必要です。 ただ、英語を学ぶ生徒には、英語を実際に使う時間が必要です。 私がPicSpeakやGlobal Classroomを作ってきた理由も、 その時間を少しでも教室の中に増やしたいからです。

参考資料

Share this article