高校で英語を教えていると、「なぜ英検を受けるのですか」と聞かれることがあります。進学や資格欄で活用できることは一つの理由です。しかし、教師として私がより大切にしたいのは、資格そのものよりも、目標を決め、準備し、挑戦し、自分の変化を確認する経験です。

だからといって、「英検に合格すれば必ず自信がつく」とは言えません。同じ合格でも、本人が「自分で努力して到達できた」と感じる場合もあれば、周囲から強く求められて受験し、達成感をほとんど持てない場合もあります。自信につながるかどうかは、結果だけでなく、その経験を本人がどう受け止めたかにも関係します。

1. 自己効力感とは「何でもできると思うこと」ではない

心理学者Albert Banduraが提唱したself-efficacy(自己効力感)は、ある状況や課題において「自分は必要な行動を実行できる」と考える、自分の能力についての信念を指します。単なる楽観や自己肯定感と同じものではなく、比較的、課題や状況に結びついた感覚です。

American Psychological Association(APA)は、Banduraの理論で自己効力感を形づくる情報源として、過去の達成経験、他者の成功を見る経験、周囲からの励まし、緊張や不安などの感情・身体状態を紹介しています。中でも、自分で課題をやり遂げたmastery experience(達成経験)は重要な情報源とされています。

「合格=自己効力感」ではありません。
合格やスコアは一つの結果です。「前はできなかったことが、練習によってできるようになった」と本人が認識できる経験が、次の課題へ向かう感覚を支える可能性があります。

2. 資格試験の価値を「合否」だけにしない

私は、英検のような資格試験を否定的に見ているわけではありません。明確な目標日があり、必要な技能が示され、結果を受け取れる試験は、学習を計画する一つのきっかけになります。

一方で、教師が「合格した人は成功、落ちた人は失敗」というメッセージだけを送れば、本来の学習過程が見えなくなります。不合格でも、語彙が増えた、長文を以前より読めるようになった、面接で前回より長く答えられた、という変化はあります。

そのため私は、生徒と資格試験を振り返るとき、「合格したか」だけではなく「何が前よりできるようになったか」を確認したいと考えています。

3. 教室で「小さな達成」をどう設計するか

自己効力感の研究から私が授業づくりに取り入れたいのは、生徒を簡単な課題だけで褒め続けることではありません。少し努力すれば届く課題を用意し、練習と再挑戦を通して、「自分の行動によって結果が変わった」と感じられる機会を増やすことです。

  • 30秒だけ英語で写真を説明し、同じ写真にもう一度挑戦する
  • 最初は言えなかった表現を確認し、次の試行で使ってみる
  • クラスメートの表現から別の言い方を学ぶ
  • 結果だけでなく「前回から変わった点」を本人に振り返らせる
  • 難しすぎる課題では、ヒントや例文を使って挑戦可能な段階に調整する

元の記事では「受動的な教室では自己効力感は絶対に育たない」と書いていましたが、そこまで断定することはできません。説明を聞くことで理解が深まり、自信につながる学習者もいます。ただ、自分で実行して成功・失敗・修正を経験できる活動を加えることには大きな意味があると考えています。

4. PicSpeakのフィードバックをどう位置づけるか

PicSpeakでは、発話が音声認識されると画面上で反応が返り、Completion RateやWPMなどが表示されます。これは「英語力を完全に測る試験」ではなく、同じ課題を繰り返したときに自分の変化を確認するための練習上のフィードバックです。

画面が光る、ピンが落ちる、結果が見える、といったゲーム的な要素も入れています。ただし、こうした機能だけで不安が消えたり、自己効力感が自動的に高まったりするわけではありません。私が狙っているのは、「もう一度試してみよう」と思える小さなきっかけを作ることです。

5. Global Classroomで「できた」を現実の対話へつなげる

教室内で練習して「少し話せるようになった」と感じても、実際の人との対話では、聞き返されたり、知らない表現が出てきたりします。Global Classroomで海外の同世代と話す場面は、その意味で試験とは違う学習経験になります。

大切なのは、完璧に話せたかどうかだけではありません。分からないときに聞き返した、別の言葉に言い換えた、相手の反応を見ながら会話を続けた。そうした具体的な経験を振り返ることで、「英語を使って人と関われた」という感覚が次の挑戦につながることがあります。

6. 教師として大切にしたい5つの問い

  • この課題は、生徒にとって「少し頑張れば届く」難易度になっているか。
  • 合否や点数以外の成長を本人が確認できるか。
  • 失敗後に再挑戦できる機会があるか。
  • 教師の励ましだけでなく、自分自身の達成経験を作れているか。
  • 教室で得た自信を、実際のコミュニケーションへつなげる場があるか。

英検の合格証が「一生ものの自信」を自動的に与えてくれるわけではありません。しかし、一つの目標に向かって学習し、自分の変化を確かめる経験は、次の挑戦を考える材料になり得ます。私は資格試験も、PicSpeakも、Global Classroomも、生徒が「前よりできることが増えた」と自分で気づくための異なる機会として位置づけたいと思っています。

参考資料

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